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のり平がしゃべらない「のり平篇」
昭和40年代は、のり平アニメCMの制作数がかなり多く、三木のり平さんに吹き込みを1日に数本分お願いすることもありました。当時、のり平さんは、舞台を年に5~6本、映画も10本近く撮っていましたので、スケジュールを調整するのがたいへんでした。
1966(昭和41)年の暮れごろだったと思いますが、翌年に発売する桃屋の新製品「江戸むらさきしいたけのり」のCMコンテができあがりました。ところが、のり平さんの録音のスケジュールがとれないのです。なにしろ、のり平アニメCMは、のり平さんが吹き込み、それからアニメを制作し、音をつけるという順番ですから、録音できないことには前へ進めません。しかし、新製品だけに、CMのオンエアの日は決まっていました。この日ならばぎりぎり間に合うと、スタジオを押さえ、アニメ制作チームも待機。しかし、のり平さんがいらっしゃれず、録音がキャンセルになると、いよいよタイムアウト。
そこで誕生したのが、1967年の「のり平篇」です。アニメの中にキャラクターの「のり平」は登場しますが、ひと言もしゃべらない。セリフはすべて女性のナレーターで、お色気タップりに「のり平」を翻弄し、最後は、実写の女性の手が「しいたけのり」の瓶を持って、アニメの「のり平」を下敷きにしてしまいます。しゃべりたいのに、しゃべらせないというしかけです。この時はアニメ制作が録音より先だったかもしれません。もう40年近く前のことなので、よく覚えていませんが、のり平さんの録音ができないとわかった時の記憶は鮮明ですね。とにかく寒かったこと、呆然としながら、いちからコンテを書き直さなくてはとペンを握ったことを覚えています(笑)」
※本インタビューは、2004年3月16日に収録したものです。