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ちょいと1杯のつもりで飲んでいつのまにやら明け方に
三木のり平さんとの思い出はいろいろありますが、いちばん印象深いのが、ご自宅へ、ひと言だけ吹き込みをお願いしに行ったときのことです。そのひと言がなんだったか、記憶は定かではありません。「桃屋のいか塩辛」だったかもしれませんね。その時は、のり平さんのスケジュールが取れず、厚かましくも自宅で収録をお願いすることになったのです。のり平さんは、セリフひと言にも非常にこだわりがあるので、ご自宅でうまくいくかどうか心配でした。録音の技術者と、私とアニメ演出担当の鳥居さんと3人で神妙な面持ちで訪ねました。ところが、意外なほど、あっけなく録音が終了しました。ほっとして帰ろうとすると、
「わざわざ、ここまで来て、すぐ帰ることはないよ、いっぱいやろう」と。遠慮したものの、「まあまあ、いっぱいだけでも飲んでいきなさいよ」ということで、録音テープとともに技術者を帰し、私と鳥居さんとでお酒をいただくことになりました。何度もお目にかかっていても、のり平さんは、やはり大スター。3人だけで、それもご自宅で飲むというのは、なかなか緊張するものでした。
「なに遠慮してんだよ、ほら、どんどん飲んで」と勧められ、1杯が2杯。のり平さんにお酒を注いでもらって、断るわけにはいきませんから(笑)。ほんの1杯のつもりが、やがて終電の時刻。もう、電車もなくなるのでと腰を浮かすと、
「電車が消えてなくなるわけないだろ、奥さんが怒る?じゃ、俺が電話してあげるから」。
そして、電話番号を聞かれ、のり平さんが直接私の家に電話を掛けたのです。
「もしもし、三木のり平です」って。
女房は、それはびっくりしたようですよ。「いつもお世話になっております」とかなんとか言って。それで、鳥居さんのところへも、電話を。そうしたら、鳥居さんの奥さんは、信用しない(笑)。
「そんな、のり平さんのものまねなんかして。のり平さんのようなスターが直接うちに電話するわけないでしょ」とのり平さんが怒られた。結局、それを酒の肴に、明け方近くまで飲みましたね。
先日、鳥居さんに会ったら、「うちの女房は、いまだにあれがのり平さんからの電話だって信じてないんですよ」と言っていました(笑)。
※本インタビューは、2004年3月16日に収録したものです。